はじめに
昨今、企業の情報セキュリティとコンプライアンスに対する社会的な要求は年々高まっています。特に、SOC 2やISO 27001、J-SOXといった国際・国内のセキュリティ認証を取得・維持することは、信頼性の高い事業運営において不可欠な要素となっています。しかし、それらを人手で対応するのはコスト・時間・人材すべての面で大きな負担となっていました。
このような背景の中で注目を集めているのが、コンプライアンス業務をソフトウェアの力で自動化・効率化する「コンプライアンスSaaS」です。本ガイドでは、その中でも世界中で急速に導入が進むVanta(ヴァンタ)について、初心者向けにわかりやすく解説していきます。
Vantaの基本概要
Vantaは、企業のセキュリティコンプライアンスを自動化する革新的なクラウドベースプラットフォームです。2016年に設立されたこのサービスは、SOC 2、ISO 27001、HIPAA、PCI、GDPRなどの主要なセキュリティ認証取得プロセスを大幅に簡素化し、従来は数ヶ月かかっていた作業を数週間で完了できるようにします。
現在、世界58か国で累計10,000社以上の企業がVantaを利用しており、Atlassian、Quora、Autodesk、Modern Treasuryなどの有名企業も顧客として名を連ねています。企業評価額16億ドル(約2,000億円)を達成し、いわゆる「ユニコーン企業」として急成長を続けています。
Vantaが解決する課題
従来のコンプライアンス対応の問題点
従来、企業のセキュリティとコンプライアンス対応は「ほぼすべてエクセルの表計算で管理されていました」。このアナログな手法では以下のような課題がありました:
膨大な手作業と時間を要する
高額なセキュリティコンサルタント費用
人的リソース不足による遅延[4]
監査準備の複雑さとミスのリスク
Vantaによる解決策
Vantaは、これらの課題をソフトウェアの力で自動化することで解決します[4]。継続的なモニタリングとリアルタイムの「トラスト・レポート」によってプロセスを自動化し、提携する監査の専門家ネットワークと連携して、各種認証取得まで一貫して支援します。
Vantaの主要機能
1. 自動化されたコンプライアンス監視
Vantaは、コンプライアンス作業の最大90%を自動化します。システムとプロセスを継続的に監視し、さまざまなセキュリティフレームワークに対する継続的なコンプライアンスを確保します。
2. 豊富な統合機能
300以上の事前構築されたシステム統合を提供し、AWS、Google Cloud、Azure、Okta、Slackなどの主要なクラウドプロバイダーやツールと連携できます。これにより、企業は既存のシステムを維持しながらVantaをスムーズに導入できます。
3. AI駆動の機能
Vanta AIは、セキュリティ質問票の質問の75%に対する回答を提案し、プロセスを効率化します。また、質問票自動化機能により、顧客からのセキュリティ審査を効率的に処理できます。
4. リアルタイム監視とアラート機能
24時間体制でシステムやリソースの状態を監視し、潜在的なセキュリティリスクを即座に特定します[1]。問題が発生した場合、関係者にアラートを送信し、迅速な対応を促します。
5. 管理対象の統合的な可視化と制御
Vantaはコンプライアンス対応を単なる「文書準備ツール」に留めず、以下のように企業の重要な管理対象を横断的に可視化・管理します。
● フレームワーク単位の確認
SOC 2やISO 27001、J-SOXなど、対応すべき各コンプライアンスフレームワークごとに、進捗状況や未対応のコントロール項目をダッシュボードで確認できます。フレームワーク間の重複コントロールは自動でマッピングされ、重複作業の削減と同時対応が可能です。
● SaaSなどのベンダー管理
Slack、Salesforce、Notion、Zoomなど、社内で利用されているSaaSアプリの接続状況、アクセス権、セキュリティ設定を自動検出・可視化します。SaaSシャドーITの発見や契約更新・棚卸の管理にも応用可能です。
● デバイス単位の管理
社員や外部協力者が使用するPC・ノートパソコン・スマートフォンなどの端末について、暗号化・パスワード設定・ウイルス対策ソフトの有無といったセキュリティ状態を常時監視します[1]。リスクのある端末にはアラートが表示され、継続的な是正管理が可能です。
● 人(社員・契約社員)のトレーニングやコンプライアンス契約の管理
正社員・派遣社員・業務委託などの雇用形態を問わず、個人ごとにセキュリティトレーニングの受講状況や機密保持契約(NDA)などの同意取得履歴を管理できます。新規入社時や契約開始時のオンボーディングプロセスに自動組み込みでき、トレーニング未実施者のフォローアップや証跡管理も効率化されます。
対応している主要認証・規格
Vantaは35以上のコンプライアンスフレームワークに対応しています:
認証・規格 | 概要 |
SOC 2 | サービス組織統制報告書 - クラウドサービスの安全管理体制を証明[4] |
ISO 27001 | 情報セキュリティマネジメントシステムの国際規格[4] |
HIPAA | 医療情報の保護に関する米国の法規制[4] |
GDPR | EU一般データ保護規則 - 個人データ保護[4] |
PCI DSS | クレジットカード業界のデータセキュリティ標準[3] |
HITRUST | 医療・ヘルスケア業界向けのセキュリティフレームワーク[2] |
Vantaの導入メリット
1. 時間とコストの大幅削減
従来数ヶ月かかっていた認証取得プロセスを数週間に短縮し、高価なコンサルタント費用を削減できます[4]。コンプライアンス維持コストの削減も実現します。
2. セキュリティリスクの可視化と低減
リアルタイムでセキュリティリスクを監視し、早期発見・対応を可能にします。これにより、データ漏えいや内部不正などのリスクを最小限に抑えることができます。
3. ビジネス信頼性の向上
セキュリティ認証を取得することで、顧客や取引先からの信頼を獲得し[8]、新規市場への参入や大型契約の獲得が可能になります。
4. 業務効率の向上
手作業を自動化することで、セキュリティチームは戦略的な業務に集中でき[4]、全体的な生産性が向上します。
企業規模別の活用方法
スタートアップ企業
初回のSOC 2監査を迅速に完了し、より大きなクライアントとの契約締結や新たなマイルストーンの達成を支援します。
金融・海外でのソフトウエアの販売にはSOC2は必須であり初期段階からSOC2を意識したプロセス構築でスケール時にコンプライアンス対応がボトルネックにならないようにします。
中堅企業
セキュリティおよびコンプライアンスプログラム全体にわたって継続的な可視性を獲得し、プロセスをスケールできます。中小企業であっても高度な技術を持つ企業においてセキュリティーやコンプライアンスの順守や管理は重要です。また人材が確保できない企業をVantaの自動化で支援します。
大企業
エンタープライズグレードのセキュリティと制御を備えた、より大規模な組織のニーズに合わせてカスタマイズされたコンプライアンスソリューションを提供します。
大企業では、多くの協力会社がプロジェクトに参画しているためセキュリティーやコンプライアンス教育を関係者に共有するだけでなく管理する必要があります。
その管理をVantaで効率化できます。
導入プロセス
Vantaの導入(SOC2やISO)は比較的シンプルで、以下のステップで進められます:
社員や業務委託先のオンボーディング設定等は別途トレーニングする内容をパッケージにするなど準備が必要となります。
初期設定: 既存システムとの統合設定
チームの招待:監査対応するチームを招待
自動監視開始: 継続的なコンプライアンス監視の開始
証拠収集自動化: 監査に必要な証拠の自動収集
監査対応: 提携監査法人との連携による効率的な監査実施
認証取得: 各種セキュリティ認証の取得完了
日本での展開状況
日本国内では、弊社INNOOV株式会社が公式代理店として、Vanta製品のサポートを提供しています。日本市場向けに最適化された導入プロセスと技術サポートにより、日本企業でもスムーズにVantaを活用できる環境が整っています。実際の監査においては、Vanta対応の監査法人をご紹介いたします。
まとめ
Vantaは、従来手作業で行われていたセキュリティコンプライアンス業務を革新的に自動化するプラットフォームです。初心者でも理解しやすい直感的なインターフェースと豊富な機能により、企業規模を問わず効率的なセキュリティ体制の構築が可能です。
現代の企業にとって不可欠なセキュリティ認証取得を、時間とコストを大幅に削減しながら実現できるVantaは、デジタル変革時代における企業の信頼構築を強力にサポートする重要なツールといえるでしょう。