Atlassian Rovo Dev CLI の特徴:
自然言語コマンド対応:英語での入力に対応し、
jira create ticket for failed deployment
のような指示が可能。Jira、Bitbucket、Confluence、Compassと連携:複数のアトラシアン製品にまたがる情報取得・作業が可能。
AIエージェントによる自動解釈と補完:必要な情報が不足していても、AIが文脈から意図を補完。
CLIに慣れた開発者向け:GUIを開かずに済むので、開発フローを中断せずに作業を進められる。
OpenAI APIを活用した英語処理:現時点では英語入力のみ対応(日本語は未対応)。
技術的な仕組みとアーキテクチャ
AIモデル・エンジン: Rovo Dev CLIは大規模言語モデル(LLM)をバックエンドに持つエージェント型AIです。Atlassianは自社クラウド向けAI機能「Atlassian Intelligence」でOpenAIのGPT-4などを活用しており、Rovo Devでも同様に高度なLLMを利用していると考えられます。ただし具体的なモデル名は公開されていません。初期ユーザからは「Anthropic社のClaude相当で、大量のトークンを処理できる」とあり、ベータ版では1日あたり約2000万トークンもの大容量コンテキストが無料提供されています。
自然言語コマンド処理: 開発者がターミナルで入力する自然言語の指示を解析し、適切なアクション(コードの生成・編集、ドキュメント更新、チケット操作など)に変換します。LLMがユーザの意図を理解し、エージェント的な対話を行いながらマルチステップでタスクを遂行します。例えば「このリポジトリでバグ修正してJiraチケットを完了して」と頼めば、コードを修正しテストし、GitにコミットしてJira課題を更新するといった一連の操作を対話的に進めます。
Atlassian製品との統合: Jiraの課題やConfluenceのページ、Bitbucket/GitHubのリポジトリなどに直接アクセス・更新できる点が大きな特徴です。統合の実現にはMCP(Model Context Protocol)と呼ばれる仕組みを採用しています。MCPとはモデルと外部ツール間でコンテキストや操作をやり取りするプロトコルで、エージェントが追加データ取得や外部サービス操作を行うためのエンドポイントです。Rovo Devは標準でJiraやConfluenceのAPIエンドポイント(課題情報の取得・更新、ページ編集など)をMCP経由で呼び出します。さらにFigma、GitLab、PagerDutyといった他社ツールともMCPサーバー接続を通じて連携可能で、必要に応じて開発者が自前のMCPコネクタを追加する拡張性も備えています。このようにチームの開発環境全体と対話しながら作業できる点が、Rovo Dev CLIの強みです。
CLI実装方式: Rovo Dev CLI自体は単一バイナリで配布されており、その内部にAIエージェントの実装が組み込まれています。具体的にはGo言語でビルドされたCLIバイナリの中に、Pythonで書かれたAIエージェントのコードが埋め込まれる構成です。Goによるクロスプラットフォームの配布容易性と、Pythonエコシステムの豊富なAIライブラリの双方を活かしたアーキテクチャです。埋め込まれたPython部分では、CLIフレームワークにTyper、ターミナルUIにRich、データ検証にPydanticなどを利用しており、対話型のリッチなコンソールUIや認証・設定管理が実現されています。Rovo Devは作業内容を保持するメモリシステムも特徴で、対話履歴やプロジェクト知識をファイルとして保持し、過去の経緯を踏まえた回答・コード提案が可能です。またエンタープライズ向けに権限管理とセキュリティも重視され、コマンドごとの実行許可制御や、操作ログ・リソース使用量のモニタリング機能、コスト管理機能が備わっています。これらにより企業内でも安全に導入・運用できるよう設計されています。
類似ツールとの比較
GitHub Copilot CLIとの比較
GitHub CopilotのCLI版(Copilot for CLI)は、ターミナルでの操作支援に特化したツールです。自然言語からシェルコマンドへの変換や、コマンドの説明などが主な機能で、例えば??
やgit??
コマンドを使って「○○したい」と尋ねると該当する複雑なコマンド例を提案してくれます。メリットとして、複雑なコマンドの書式を覚えずに済む点やGit操作の補助が挙げられます。一方で範囲は限定的で、あくまで単一のコマンド提案・補完が中心です。コードの生成や複数ファイルにまたがる編集、プロジェクト管理ツールとの連携といった機能は持ちません。
これに対しRovo Dev CLIは「エージェント型AI」として、より包括的な開発支援を行います。コードの理解・生成からテスト作成、デバッグ実行、ドキュメント記述、さらにJiraチケットの更新まで一連の流れを対話で自動化できます。Copilot CLIが「コマンドラインの便利帳」だとすれば、Rovo Dev CLIは「開発パートナー」に近い立ち位置です。例えばRovoは「このリポジトリで未解決のTODOリストを洗い出して対応し、Jiraを更新して」といった高度な指示にも応じます(Copilot CLI単体ではこうしたマルチステップ処理は困難です)。
評価として、Copilot CLIはセットアップも容易な実験的ツールで「痒い所に手が届く」と好評ですが、Rovo Dev CLIはその上位概念とも言える存在です。RovoはIDEの補助を超えて開発フロー全体を最適化することを目指しており、企業開発ではコンテキストスイッチ削減による生産性向上が期待できる点で差別化されています。
Cursorとの比較
Cursorは近年登場したAI搭載エディタで、コーディングに特化した支援を行うツールです。VS Codeに似たインタフェースを持ち、エディタ内でAIチャットによりコード補完やリファクタ提案が受けられる「AIファーストIDE」と位置付けられています。GitHub Copilotが既存IDEのプラグインであるのに対し、「Cursorは開発環境そのものを置き換えることを目指している」と評されます。Cursorはファイル内やプロジェクト内のコード理解に長け、対話しながらコードを書き進めたり、大きなリファクタリングをAIに任せたりする用途で注目されています。
Rovo Dev CLIとの大きな違いは利用インタフェースと統合範囲です。CursorはGUIエディタ内でのコード支援にフォーカスしており、例えば関数の説明や補完、バグ修正提案といったコードそのものに関する対話が中心です。一方Rovo Dev CLIはターミナル上で動作し、コード編集だけでなくチケット管理やドキュメント更新まで含めた開発プロセス全体を扱います。つまり、Cursorが「手元のコードを書くパートナー」なら、Rovoは「プロジェクト進行を手助けする相棒」です。
技術者の評価では、コード補完性能自体はCursorやCopilot(IDE版)も高精度で、Cursorは動作の軽快さや応答速度で好まれる場合があります。一方Rovoは単なるコード補完以上の文脈理解と自動化能力が評価ポイントです。例えば「新機能のJiraチケットをDONEにするまでの一連の作業を任せられる」のは現状Rovoならではの強みです。用途としては、「コードを書くことに集中したいならCursor、開発タスク全般を効率化したいならRovo」という棲み分けになるでしょう。
Warpとの比較
Warpはこれまでのものとは趣が異なり、「モダンなターミナルアプリ」です。Rust製の高速なターミナルにコマンドの共有や履歴管理、クラウド同期などの機能を備え、近年人気を集めています。WarpにもAIアシスタント機能が統合されており、コマンドの自動補完やエラーの説明などでChatGPT系のモデルを活用しています。自然言語で「○○したい」と入力するとコマンド候補を提案してくれる点はCopilot CLIと似ています。また、コマンド結果を解釈したり、複雑なシェルスクリプトを生成したりといった用途でも利用できます。
Rovo Dev CLIとの違いは、Warpが「ターミナルそのものの強化」であるのに対し、Rovoは「ターミナル上で動く開発AIエージェント」である点です。Warpはエディタ的な洗練UIやチーム共有機能で開発者体験(UX)を向上するツールですが、プロダクト自体が特定のコード生成タスクを自動化したりJiraと連携したりはしません。一方Rovoは既存のターミナル(bashやzsh上)で動き、AIがユーザ操作を代行・支援する点にフォーカスしています。
機能面では一部重なる部分もあります。例えばWarpのAI補助も「自然言語→コマンド」の提案や簡易なスクリプト生成が可能であり、日常的な開発CLI作業の時短に貢献します。ただし開発フロー全体への踏み込み度が違います。Rovoはコード理解・変更からチケット管理まで踏み込むのに対し、Warp AIはあくまで「端末操作の賢い補佐」です。企業利用を考えると、Warpは開発者の効率アップツールとして評価されていますが、Rovoはそれに加えてプロジェクト管理や知識集約まで含めた包括的支援で差別化しているといえます。
ユースケース・導入事例
Atlassian社内での活用: Rovo Devは元々Atlassianの社内開発チーム向けに開発・使用されていた経緯があります。社内での成功を受け、2025年に一般ユーザ向けベータ提供が開始されました。例えばコードレビューの自動化やリファクタ提案、ドキュメント生成など、Atlassianのエンジニアたちは日常的にRovoを活用し、生産性向上を実感しているといいます。社内実証により大規模プロジェクトでも通用するAIエージェントとして磨かれたことが、同社からの提供開始コメントにも表れています。
日常的な開発支援: ベータ利用者から報告されている典型的なユースケースとしては、コードリーディング・ナビゲーションがあります。新しく参加したプロジェクトの巨大なコードベースも、Rovoに聞けば「○○という機能はどのファイルに実装されていますか?」や「△△クラスの役割を説明してください」といった質問に即座に答えてくれます。これにより新人エンジニアのオンボーディングや他チームのリポジトリ解析が大幅に効率化されます。
Jiraを起点とした開発タスク完遂: Rovo Dev CLIはJiraと統合しているため、ターミナルから離れずにチケット駆動開発ができます。たとえば「JiraのISSUE-123を完了しよう」と入力すると、該当チケットの内容を理解し(必要なら関連Confluence設計資料も取得し)、コード編集を開始します。実装が終わると自動でPRを作成し、ビルド・テストを実行。問題なければチケットをDoneにし、変更概要をコメントに記入する——といった一連の開発フローをエージェントが主導します。開発者は要所要所で提案内容を確認・承認するだけで済み、「ターミナル上でチケット消化が完結する」体験が実現されています。
障害対応・インシデント管理: 運用中のサービスで障害が発生した場合の対応にもRovo Dev CLIは役立ちます。例えば深夜のオンコール対応時、エラーアラートを受けてRovoにログ解析を依頼すると、関連するログやスタックトレースを素早く読み込み原因箇所を特定します。次にJiraにインシデントチケットを自動起票させ、障害内容や初期解析結果を整理して記述します(PagerDutyやOpsgenieから得たアラート情報を含めることも可能)。さらに想定される影響範囲をコードベースから洗い出したり、過去の類似インシデント(Confluenceの事後検証レポートなど)を検索して教えてくれるため、担当者は迅速に対応策の検討に入れます。復旧後はポストモーテム文書のドラフトをRovoが生成し、担当者が加筆修正して公開する、といった流れも支援されます。これら一連のDevOps対応プロセスをRovoがアシストすることで、対応時間の短縮と情報共有の抜け漏れ防止に寄与します。
その他の導入例: 公式発表によれば、すでに複数の企業チームがRovo Dev CLIを試用し「毎日の開発ワークフローの一部」に組み込んでいます。たとえばあるチームでは、新機能実装時にRovoを使って関連するドキュメント(仕様書や設計メモ)を自動生成させ、レビュー時間を削減しています。また別のケースでは、レガシーコードの大規模リファクタリングにRovoを活用しました。エージェントがコードベースを解析し、「まずステップ1として○○クラスをモジュール分割しましょう」→「ステップ2として古いAPI呼び出しを新しいライブラリに置換します」といった形で段階的にリファクタ案を提示・実行してくれます。人間の開発者は各段階で結果を確認しながら進めることで、大規模改修も安全かつ効率的に進行できたとのことです。
以上のように、Rovo Dev CLIはコード記述からプロジェクト管理・運用対応まで幅広いユースケースで活用が期待されています。2025年6月現在ベータ版ながら非常に高機能であり、Atlassianは「開発の未来」を担うツールとしてフィードバック収集と改良を進めています。今後、正式リリースに向けてさらなるモデル強化や対応ツール拡充(より多くの外部サービス連携)も予想され、開発者の働き方に大きな変革をもたらす可能性があります。
参考文献・出典: Rovo Dev公式発表記事、外部技術メディア解説、製品解析レポート、開発者のレビュー・コメントなど。