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Intercom- FIN Over Email:メールでのFIN構築
Intercom- FIN Over Email:メールでのFIN構築

Fin AIエージェントは、メールを含む複数チャネルでAIサポートを提供します。自動応答と複数質問対応が可能で、顧客対応効率を大幅に向上します。リリース初月で100万件以上のメールを処理し、問い合わせの81%に回答、56%を自動解決しています。

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対応者:Miyaka Sarashina
2週間以上前に更新

※本ブログはオリジナル翻訳版です。正確な内容については原文(Intercom 公式ブログ:https://www.intercom.com/blog/fin-over-email-how-we-built/)を参照ください※

メールはサポートにおいて重要なチャネルですが、ライブチャットのような同期的なチャネルに比べると、メールでのやり取りは顧客の解決までに時間がかかる傾向があります。

AI主体のカスタマーサービスが普及する中、現在、フロントラインの顧客からの問い合わせの多くが、大規模言語モデル(LLM)を活用したAIエージェントによって対応されています。弊社のFin AIエージェントも、顧客からの問い合わせの50%以上を即座に解決しています。

しかし、AIエージェントはチャットでしか機能しないという印象が残っているのも事実です。私たちの調査では、多くのカスタマーサービスリーダーがAIをチャット体験と同一視しており、AIが人間のエージェントと同様に複数のチャネルでサポートを提供できる可能性に気づいていないことがわかりました。

私たちは、この認識を改めるべく、Fin AIエージェントの最新アップデートを発表しました。これにより、顧客はメールでも瞬時に回答を受け取れるようになります。

Fin AIエージェントをメールで機能させるにあたり、いくつかの興味深い技術的およびUXの課題が浮かび上がりました。ここでは、そのプロセスについて詳しく解説し、得られた知見を共有します。

Fin for Emailの仕組み

顧客がメールを通じて企業のカスタマーサポートに問い合わせをすると、Fin AIエージェントが自動的に会話に入り、問題解決にあたります。Finの回答は、生成AI技術を活用し、RAG(Retrieval-Augmented Generation)フレームワークを用いて幅広いサポートコンテンツから回答を生成します。

Finは、単に質問への直接的な回答を提供するだけでなく、より会話的なやり取りも可能です。顧客の最初のメッセージが不明瞭な場合には、最適な回答を見つけるために追加の質問を行うこともできます。また、Finが対応できない複雑なケースでは、スムーズにサポート担当者に引き継ぐ機能も備えています。

開発の道のり

Intercomが2023年3月にFin AIエージェントを発表した際、それは市場で初めての生成AI搭載のカスタマーサービスエージェントでした。私たちは、過去に開発した機械学習ベースの製品「Resolution Bot」で得た知見を活用し、生成AIエージェントのあるべき姿を構築しました。その後、解決率の向上を目指し、まったく新しい機能の導入や基盤モデルの改善を継続的に行い、提供するサービスの拡張と強化に努めています。

基本原則からの出発

Finをメールで機能させるにあたり、私たちには明確な設計図はありませんでした。メールというチャネルはチャットとは大きく異なるため、Finがチャットと同じように機能すべきかどうか確信が持てませんでした。ここで「大きく考え、小さく始め、迅速に学ぶ」という原則が役立ち、私たちは「ファーストプリンシプル思考(基本原則に立ち戻る思考)」を適用しました。

まず、顧客にとってメールの自動化がなぜ重要なのか、どのような要件があるのか、Finをメールに対応させることでどのような効果が期待できるのかを理解するための調査から始めました。これらの洞察は「インターミッション」と呼ばれるドキュメントにまとめられます。このドキュメントは、すべてのプロダクト開発の冒頭で作成し、「問題から着手する」という私たちの原則に沿ったものです。

イテレーション開発

さまざまな仮説を検証するため、私たちはアルファ版で小さく始めることにしました。開発チームは、メール上でFinを稼働させるための技術的基盤と、必要最小限のチームメイト体験を構築しました。余分な機能を付けず、基盤のみを整えるシンプルな形でスタートしました。幸い、既に強固なメールソリューションと柔軟な自動化システム(ワークフロー)を持っていたため、迅速に準備を整えることができました。

「この緊密な連携こそが、私たちのR&Dでの仕事の核となります。顧客とのフィードバックループが近いため、迅速に進められるのです。」

そこで、月間のメールやり取りが多い一部のFin AIエージェントの顧客に声をかけ、構築したばかりのソリューションについてフィードバックを得ました。このフィードバックから得られたインサイトをもとに、オープンベータリリースのスコープを明確に定めることができました。

Intercomでは、プロダクト開発の進行とともに、顧客とのパートナーシップを築ける幸運に恵まれています。顧客と緊密に連携し、彼らのニーズを理解し、初期ソリューションに対するフィードバックを収集しています。この密なパートナーシップこそが、R&Dにおける私たちの活動の中心です。顧客とのフィードバックループが近いことで、迅速に進行できるのです。

この初期フィードバックにより、オープンベータの形が整いました。この段階で、より詳細なデザインフェーズを開始し、「インターコンセプト」と呼ばれる成果物を作成しました。このフェーズはプロダクトデザイナー主導で進められ、複数のアプローチとそれぞれの利点と欠点がリストアップされています。

構築の準備が整ったとき、リードプロダクトエンジニアがプロジェクト計画を作成し、何をどの順序で構築するかを明確にしました。これにより、チーム全体が一体となってプロジェクトを進めることが容易になりました。Finのメール対応のオープンベータを開始した後は、利用状況をモニタリングし、できるだけ多くのフィードバックを収集して、一般公開に向けて必要な改善や新機能を特定することに注力しました。

課題と考慮点

Fin AIエージェントの開発チームは1年以上にわたり多くの使用インサイトを蓄積し、大きな成功を収めてきましたが、メールでFinを機能させるには特有の課題が伴いました。

技術的な課題

2022年には、生成AIが急速に普及する以前の段階で、IntercomはWhatsApp、SMS、メールなど異なるチャネルでのオートメーションやチャットボットの運用を可能にしました。その中で、メールはすでに自動化が難しいチャネルであることが分かっていました。

技術的な観点から見た際に直面した具体的な課題として、以下のようなものがありました:

  • メールの到達性:メールクライアント(GmailやOutlookなど)によってアドレスがブロックされたり、使用が制限されることがあり、これは私たちの管理外でした。

  • 複数の問い合わせを1通のメッセージで受け取る頻度の高さ:メールでは1通のメッセージ内に複数の質問が含まれることが多く、それぞれを別々に処理してコンテキストを失わないようにする必要がありました。

  • チャット形式の自動化コンテンツをメール形式に変換する難しさ:チャットの自動返信は短いメッセージを連続して送る形式が多いため、これをメール用にヘッディング、本文、署名を正しく配置した1通のメールにまとめる作業は単純ではありませんでした。

ユーザー体験の考慮点

技術的な課題だけでなく、最終的なユーザー体験に影響を及ぼす問題の解決も必要でした。

多くのエンドユーザーにとって、メールを介してAIエージェントとやり取りするのは、ライブチャットでのやり取りほど習慣化されていません。そのため、メールにおける標準的な期待を考慮した体験設計が求められ、チャット体験を単にメールに再現しようとするのではなく、メールならではのやり取りをデザインする必要がありました。

また、エンドユーザーがAIエージェントとメールでやり取りする際に、自然で直感的な体験を提供することも重要でした。ユーザーがAIエージェントとのメールでのやり取りに安心感を持てるようにするためです。

新しい体験設計において、ライブチャットとメールの間で以下のような多くの違いを考慮する必要がありました:

  • メールは非同期のチャネルであるため、ライブチャットのような即時の応答のやり取りがなく、顧客は回答を受け取るまでに長く待つことが多い。

  • メールの内容は一般的に長文で、情報量も多いため、テキストや画像が豊富に含まれる傾向があります。

  • チャットの対話に追加できるボタンなどのインタラクティブな要素は、メールでは再現が難しいため、別の形で設計する必要がありました。

  • ユーザーがAIエージェントと話していると認識させるための視覚的な工夫が、ライブチャットとは異なる形で必要でした。

  • メールクライアント(例:GmailやOutlook)によってメールの表示方法が異なるため、多くのデザイン要件を満たす必要がありました。

AIアーキテクチャの適応

最後に、技術的およびユーザー体験の課題から得られた知見を基に、機械学習の専門家やエンジニアと連携して、メール対応専用の新しいコンポーネントをAIエージェントの基盤アーキテクチャに組み込みました。これは、従来のチャット対応AIエージェントとは異なり、メールの特性に合わせて開発されたものです。具体的な特徴としては以下の通りです:

  • 1つのメッセージ内の複数の質問を個別に処理する機能:例えば、いくつかの質問には直接回答し、他の質問には追加の確認を行うなど、1通のメールで異なる処理を行います。

  • メール署名に含まれる画像を、問い合わせに関連がない場合は処理しない機能:これにより、不要な情報が含まれないようにしています。

  • スパムや自動生成されたメールを無視するメカニズムの内蔵:自動返信メールや広告メールを誤って処理しないようにしています。

また、メールにおいてはチャットほどの即時性が求められないため、より複雑で精度の高いLLM(大規模言語モデル)のクエリを実行し、より信頼性の高い回答を生成することが可能になりました。このプロセスでも、レスポンス時間に大きな影響を与えることなく、質の高い対応を実現しています。

Fin Over Emailの実績

この機能の導入による顧客への影響は即座に現れました。例えば、RB2B社のテクニカルオペレーション責任者であるロブ・クラーク氏は、驚異的な成果を報告しています。

「RB2Bは過去58日間でユーザー数が2倍になりましたが、サポートチームが対応する問い合わせは45%減少しました。その大きな要因は、Fin AIエージェントがメール返信を担当し始めたことです。このシンプルながら強力な変化により、追加の493件のチケット対応を回避できました。1件あたり15分の対応時間を考えると、約123時間の節約です。まだ導入していないなら、それは大きな機会損失です。効率と時間の節約はまさにゲームチェンジャーで、今から12カ月後には、2人のチームが20人分の働きをするようになるでしょう。」

Fin AIエージェントは、リリース初月で100万通以上のエンドユーザーからのメールを処理し、関与したメール会話の81%以上にAI生成の回答を提供しました。そのうち、平均して56%以上の問い合わせを自動的に解決しています。

現在、Finのメール対応機能が利用可能です。この機能がどのようにカスタマーサポート体験を変革できるかについて、こちらから詳細をご覧いただけます。また、設定方法を解説した以下の動画もご参考ください。

お客様のカスタマーサービス体験は、顧客がコミュニケーションを望むすべてのチャネルで優れたサポートを提供する必要があります。そのためには、AIエージェントも各チャネルでサポートを提供できることが求められます。Fin AIエージェントにより、そのようなオムニチャネルAIサポート体験が現実のものとなりました。

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