承認・禁止・グレーゾーンを一枚に:ClaudeでAI利用規程と運用台帳を同時に作る
「AIを業務で使うルールを整えないといけない」という宿題は、多くの組織で誰かのデスクに置かれたまま動いていません。作るべき項目が多く、法規制の確認が必要で、しかも一度作れば終わりではない。外部コンサルに頼むと費用がかかり、自社で書こうとすると白紙の前で止まります。
Claude Academyのユースケース「Generate an AI policy(AI利用規程を作る)」は、この宿題を15分の作業に置き換えます。原文の考え方はこうです。規制要件や業界固有の論点を調べるClaudeの能力と、自組織のミッションや価値観を知っている自分の知見を組み合わせれば、高額なコンサルタントなしで包括的なAIガバナンス規程を作れる。
なお原文の事例は、若者のメンタルヘルス支援を行う非営利団体(職員75名・ボランティア200名)を想定しています。以下では日本の企業でも読み替えられる形で整理しつつ、原文が非営利前提で書いている箇所はその旨を明示します。
ステップ1:タスクを記述する
プロンプトの組み立て方が、この記事のいちばんの学びどころです。原文の例は長いので構造を追いながら訳します。
まず組織の状況を伝えます。規模(職員75名、ボランティア200名)、事業領域(若者のメンタルヘルス支援)、すでにAIを使い始めている業務(管理業務、寄付者コミュニケーション、一部のプログラム運営)。
次に先に調べさせます。 「まずResearchを使って、他の非営利団体、とくに脆弱な立場の人々や若者を支援する団体のAI規程の実例を見つけてください。この分野でどんなガバナンスの枠組みが立ち上がってきているのか、他団体が具体的にどんな保護策を実装しているのかを理解したい」。白紙から書かせるのではなく、まず外の事例を集めさせてから自組織の条件を重ねるという順番です。
そのうえで自組織固有の文脈を箇条で渡します。12〜18歳の未成年を対象にしている / 機微な健康情報・家族情報・個人の体験談を扱う / 寄付者は技術の使い方の透明性を期待している / 職員のAIスキルには大きな幅がある / AIのバイアスが脆弱な立場の人々に影響することを懸念している、の5点です。
さらに既存のデータプライバシー規程と倫理規範をアップロードして整合を取らせます。
最後に目次を指定します。 ここが実務的に効く部分なので、そのまま残します。
ガバナンス体制:AIツール導入の承認者は誰か / リスク評価の枠組み / 監督責任
データプライバシーと保護:AIツールに使ってよいデータと使ってはいけないデータ / 受益者情報の保護措置 / 寄付者データの保護 / データ保持と削除の手順
適切なユースケース:承認済みの用途(管理業務、コミュニケーション、分析) / 禁止用途(臨床判断、受益者の自動評価) / 個別判断が必要なグレーゾーン
職員向けガイドライン:研修要件 / 検証責任 / 人間に判断をエスカレーションすべき場面 / 記録要件
倫理的配慮:バイアスの検知と緩和 / 受益者と寄付者に対する透明性 / ミッションとの整合性評価 / コミュニティへの影響評価
そして成果物の形式を指定します。「包括的な規程文書(Word)と、ウェブサイト用の簡易版(md)が必要です。専門的で、理事会に出せる水準の洗練された書式にしてください」。
「承認済み・禁止・グレーゾーン」の3分類と、「エスカレーションすべき場面」を最初から目次に入れているのが、この指定の勘所です。禁止事項だけを並べた規程は現場で参照されませんが、この3分類なら迷ったときに開く文書になります。
ステップ2:Claudeに文脈を与える
必要な文脈として原文が挙げるのは、AIガバナンスの枠組みを形づくるべき既存規程のアップロードです。具体例として、データプライバシー規程またはセキュリティ規程、組織の倫理規範や価値観の表明、寄付者プライバシー規程、就業規則の技術利用に関する条項、ベンダー管理や調達の規程、事業概要や方針文書が挙げられています。これらがあることで、Claudeが自組織の既存のコミットメントと言葉遣いを理解できるようになります。
任意の文脈として、ウェブ検索を有効にしておくことが挙げられています。分野のAIガバナンスのベストプラクティス、一般的な規程の枠組み、業界固有の論点を、起草前に集めさせるためです。
ステップ3:Claudeが作るもの
原文は「連携して機能する2つのプロフェッショナルな成果物」と説明しています。
Word文書は包括的な規程の枠組みです。エグゼクティブサマリー、データプライバシーと倫理的利用を扱う詳細な条項、明確な可否を示した職員向けガイドライン、役割と責任を定義したガバナンス体制、実装スケジュール、そしてテンプレートと様式を収めた附属資料が含まれます。洗練された書式、プロフェッショナルな配色、明確な階層構造で、理事会での説明に使える水準だと書かれています。
Excelワークブックは実装と追跡のツールになります。タブ構成は、ユースケース申請と承認ワークフロー / 評点ルーブリック付きのリスク評価マトリクス / 職員名簿と研修受講状況の追跡 / AIツール調達のベンダー評価チェックリスト / 四半期レビュー予定を含むコンプライアンス監視 / 規程の例外記録。データ検証のドロップダウン、リスクを強調する条件付き書式、動作する採点式、そしてガバナンス状況をまとめたエグゼクティブダッシュボードまで含まれます。
原文は「どちらの成果物もそのまま使える状態で、編集は最小限で済む」と締めています。
なお、この箇所には原文内の食い違いがあります。ステップ1のプロンプトは「Word文書とウェブサイト用のmd」を求めているのに、ステップ3で説明されるのはWord文書とExcelワークブックです。実際に走らせるときは、必要な成果物を自分で明示し直したほうが確実でしょう。規程本体(Word)、公開用の簡易版(Markdown)、運用台帳(Excel)の3点を明示的に指定するのが実務的な落としどころだと思います。
注目したいのは、Excelワークブックの側です。規程を作るタスクが、同時に「運用する仕組み」を作るタスクになっている点が本質だと思います。申請フォーム、リスク評点、研修受講の記録、例外ログ。規程が形骸化するのは、たいていこの運用側が用意されていないからです。
ステップ4:フォローアップのプロンプト
原文は3つの発展形を挙げています。
職員向け研修資料を作る。 「規程のハイライト、自組織の業務に関連する実践的な例、職員が遭遇する典型的なシナリオ、そしてAIを使う場面と人間の判断にエスカレーションする場面を分ける明確な判断フローを含む、研修スライドと配布資料を作成してください」。
理事会向けプレゼンを追加する。 AIガバナンスが重要な理由、主要条項とその根拠、実装スケジュール、これがミッションをどう守るのか、コンプライアンスをどう測るのかに焦点を当てたPowerPointを作らせます。
寄付者向けの説明を用意する。 データ保護、倫理的な利用、ミッションとの整合性を強調した説明メッセージ。年次報告書用の文章、ウェブサイトのFAQ、直接の質問への回答例を含めます。
企業に置き換えると、この3つはそれぞれ社内研修資料・経営会議向け説明資料・顧客や取引先への説明文に対応します。規程を1つ作ると、そこから派生する説明責任の資料が一式必要になる。それを同じ会話の中で続けて作れるという構成です。
ステップ5:コツと注意点
原文が挙げるコツは5つあり、いずれも運用側の知恵として実用的です。
法域固有の法的要件を確認する。 このテンプレートは健康情報に関するHIPAAなど一般的な論点を扱いますが、法令遵守は所在地によって大きく変わります。 自分の地域の規制を調べさせ、そのうえで理事会での採択前に必ず法務の専門家にレビューさせることと明記されています。日本の組織なら、個人情報保護法や業種ごとのガイドラインに照らした確認が同じ位置に来ます。
自組織固有の懸念に合わせて反復する。 包括的な土台はできますが、固有のリスクは自分が知っています。「ボランティアによるAIツール利用をもっと詳しく」「未成年の画像の取り扱いの節を拡充して」といった追加指示で特定の節を強化できます。
役割別の要約版を作る。 職員によって必要な詳細度は違います。「受益者データ保護に絞った1ページの要約をプログラム職員向けに」といった形で、規程をより行動可能なものにできます。
規程見直しのトリガーを組み込む。 年次見直しの予定に加え、新しいAIツールを導入したとき、規程違反があったあと、規制が変わったとき、業界の指針が出たときという中間更新のトリガーを入れる。形式化したいなら「規程改訂プロセス」の節を追加させます。
制限より先に承認済みの用途を示す。 職員への説明は、制限を扱う前にAIツールで何ができるのかから入る。これで規程が「行動を制限するだけのもの」ではなく「責任ある利用を可能にするもの」として位置づけられます。既定の構成が制限寄りに感じるなら、節の並べ替えもClaudeに頼めます。
まとめ
このユースケースの本質は、AI規程づくりを「文書を書く仕事」ではなく「調べる → 自組織の条件を重ねる → 運用台帳まで作る」という3工程に分解したところにあります。とくに、外部事例のリサーチを先に行わせるという順番と、規程と同時に申請・評点・研修記録・例外ログの台帳を作るという設計は、そのまま真似する価値があります。
日本の企業に持ち込む場合、原文の非営利前提の置き換えは素直です。受益者データ → 顧客データや従業員データ、寄付者への透明性 → 取引先や株主への説明、理事会 → 取締役会や経営会議、ボランティア → 業務委託先や派遣社員。「承認済み・禁止・グレーゾーン」の3分類と「人間にエスカレーションする場面」は、業種を問わず効きます。 そして原文が最後に強調する点も変わりません。法務の専門家のレビューを経ずに採択しないこと。 Claudeが作るのは、専門家に見せる前の完成度の高い草案であって、専門家の代わりではありません。
最初の一歩としては、既存のセキュリティ規程と就業規則の技術利用条項をフォルダに入れ、自社の状況(規模、扱うデータの種類、すでに使い始めているAIツール)を5行ほど書いて、上の目次指定で1回走らせてみることをおすすめします。出てきた「グレーゾーン」の節に自社で実際に迷っている論点が入っているかどうかで、この手法が使えるかを判断できます。
社内規程の配置と改訂運用という観点では、こうして作った規程をConfluenceのようなナレッジベースに置き、見直しトリガーをJiraのチケットとして起票する形にしておくと、年次見直しが忘れられずに回ります。INNOOVではこうした規程の置き場所と改訂フローの設計からご相談を承っています。
INNOOV株式会社について
この記事は、AtlassianやIntercomなどのSaaS導入支援と、AIを活用した業務プロセス改善を行うINNOOV株式会社がお届けしました。「自社でもこんな仕組みを作ってみたい」「ツール導入を相談したい」という方は、お気軽にお問い合わせください。SOC 2・ISMS対応を効率化するコンプライアンス自動化ツール「Vanta」の導入支援も行っています。