近年、企業内でシステムの内製化を進める動きが広がっていますが、「内製化」をゴールとする場合、多くの組織が以下のような課題に直面します。私が経験した中で良くあるケースが、内製ツールのメンテナンスやバージョンアップが追いつかず、時間とともに結果的にコストセンターと見なされ、人材配置が弱体化する事態がしばしば発生します。実際、内製化したシステムが2~3年で陳腐化し、5年が経過するとセキュリティ面で大きなリスクを抱えることが多いです。
このような状況を避け、内製化プロジェクトの成功を確保するためには、慎重なプラットフォーム選定と持続可能な体制づくりが欠かせません。特に、オープンソースやスクラッチ開発に頼るのではなく、セキュリティが確保された信頼性の高いプラットフォームを採用することが推奨されます。ITエンジニアの流動性が高い現状において、開発当初のメンバーが退職することが多く、安定した運用とセキュリティを確保するために重要です。
内製化失敗事例と教訓
事例1:IT企業のDX内製化プロジェクト
概要: 顧客満足度向上を目的とした新サービス開発の内製化プロジェクトに着手。各部署から約100名が集まり、急ピッチで準備を進行。
失敗要因:
全員が通常業務と兼務しており、プロジェクトに十分な時間を割けなかった。
システム開発の知見を持たないメンバーが多く、開発効率が低下。
必要なDX人材の中途採用が思うように進まなかった。
事例2:金融業のデータ管理システム内製化
概要: 顧客データ管理システムの内製化に着手し、社内ITチームがプロジェクトを立ち上げ。
失敗要因:
経営層からの支援や資金投入が不足。
予算不足で技術的な問題への対応が難航し、プロジェクトが途中で停滞。
事例3:野良AI化の問題
概要: DX推進組織と現場ユーザーの間にギャップが生じ、AIの実装が放置されたままに。精度が低下しても改善されない状態が続く。
失敗要因:
現場が日々の業務に追われ、AIのメンテナンスに時間を割けなかった。
メンテナンスフローが明確に定義されておらず、迅速な支援ができなかった。
内製化に伴う主な課題
1. 人材の調達と育成の課題
専門性の確保が困難: AIやIT技術に精通した人材の確保が難しく、高い給与が必要で採用コストが増加。
育成コストと時間: 既存人材のスキルアップには多大な時間とコストがかかる。
2. 運用と保守の負担
メンテナンス負担: 継続的なメンテナンスやアップデートが必要で、怠るとリスクが増加。
技術の陳腐化: 技術進歩が速いため、内製システムが陳腐化しやすい。
3. イノベーションの停滞
外部知識の不足: 内製化に注力すると、最新技術や知識が取り入れにくくなる。
柔軟性の欠如: 外部の新しい視点やアイデアが失われ、イノベーションが停滞する。
4. コストと品質のバランス
品質低下のリスク: コスト削減を優先しすぎると、システムの品質が犠牲になる。
スケーラビリティの限界: 内製システムが増大するデータやユーザーに対応できない場合がある。
5. ビジネスとのギャップ
技術とビジネス目標の不一致: 技術的アプローチとビジネスのニーズが一致しない。
変化への適応力不足: ビジネス環境の変化に柔軟に対応できない。
6. コストセンター化のリスク
品質改善の不足: 内製化がコストセンターと見なされ、セキュリティ対策や機能改善が後回しにされる可能性がある。
内製化を成功させるための要点
1. 信頼性の高いプラットフォームを採用
初期コストだけでなく、長期的なセキュリティとメンテナンスも考慮して選定。
自動でメンテナンスが入るSaaS等クラウド型を推奨します。
2. エンジニアの知識を組織全体で共有
ノウハウの共有やドキュメント化を徹底し、特定の人材に依存しない体制を構築。
ドキュメントやバージョン管理の定期的な監査を推奨。
3. 持続可能なセキュリティとメンテナンス体制の構築
定期的なセキュリティチェックやメンテナンス計画を策定し、持続的な運用体制を整備。
メンテナンス作業は必要な作業として実施
メンテナンスができないのであれば内製から外部からの支援も一部入れる必要があります。
4.外部の知見の活用
定期的な内製製品の監査やチェック・技術的アドバイスの入手が必要
この内製化成功とは言っていますが、この要点を確保できない場合内製化によるITツールの運用はいずれ陳腐化することで組織のパフォーマンスを下げるだけでなくセキュリティ的なリスクも発生することとなります。
内製化は強力な戦略ですが、適切な体制と長期的視野がなければ、リスクやコストが増大しやすくなります。