Full Delivery Engagement(FDE)とは
FDE(Full Delivery Engagement)とは、企業のAI導入を「戦略設計から構築・実装・初期運用」まで一貫して支援するモデルを指します。
単なる受託開発ではなく、ブランド・デザイン・業務要件・システム構築・導入支援を包括的に行う点が特徴です。初期フェーズでの効果が高い一方、運用フェーズでは以下のような課題が顕在化します。
FDE後(運用フェーズ)の典型的な問題点
① 継続的な改善サイクルが止まる
初期構築ではスピード感がありますが、運用に入ると「誰が改善をリードするか」が不明確になりやすく、結果としてPoC止まり・形骸化しやすい。
② ベンダーロックの懸念
FDEでは独自スクリプトやRAG構成などのカスタム要素が多く、モデル更新やAPI変更時に内部構造がブラックボックス化し、依存度が上がる。
③ 運用人材のスキルギャップ
初期は専門家が支援していたが、運用段階では現場担当者が引き継ぐため、AI挙動や再学習の理解不足で軽微な修正にも外注コストが発生する。
④ データ更新・学習運用の軽視
初期データで構築して終わりとなるケースが多く、FAQやナレッジ更新が反映されず回答精度が劣化する。
⑤ KPIの責任分界が曖昧
導入効果を誰が継続的に測定・改善するか明確でなく、ROI評価ができず投資判断も鈍化する。
⑥ 契約構造が「開発完了型」のまま
準受託契約が中心で、継続改善契約への移行が進まず、改善や保守が「都度見積り」で遅くなる。
対応の方向性(改善策)
課題 | 改善策 |
改善サイクル停止 | 運用フェーズ用「エンゲージメント継続契約」を設計(例:月次レビュー+小改善枠) |
ベンダーロック | コード・構成・ナレッジをGit+ドキュメントで共有し透明性を確保 |
スキルギャップ | クライアント社員向けAI運用トレーニングを提供 |
データ更新 | 自動再埋め込み・モデル監視の仕組みを導入 |
KPI不明確 | 「AI利用KPIレポート」などの定期可視化をSaaS化 |
契約問題 | 「Dev→Ops→Success」のフェーズ別契約モデルを採用 |
FDE構築型とSaaS導入型の比較
項目 | FDE構築型 | SaaS導入型 |
初期費用 | 高い(数百万〜数千万円)要件定義・連携開発を伴う | 低い(PoC〜初期設定数十万円) |
運用コスト | 継続開発・保守人件費が発生 | 定額サブスク(月数万〜数十万円) |
トータルコスト(3年) | 中〜高(当初見積の1.5〜2倍) | 低〜中(予測しやすい) |
安定性 | カスタム構成で変更影響を受けやすい | ベンダーが自動更新・SLA保証 |
セキュリティ | 自社対応が必要 | SaaS側がSOC2/ISO27001対応済 |
アップデート | 手動反映・人依存 | 自動更新・継続改善 |
柔軟性 | 高い(自社要件に最適化) | 中〜高(設定次第で柔軟化) |
ROI回収期間 | 12〜24か月 | 3〜6か月 |
SaaSの進化による変化
近年はカスタマイズ性の高いHigh Availability SaaSの進化により、
ワークフロー構築・自動化・条件分岐・外部API連携などが柔軟に行えるようになっています。
これにより、従来FDEでしか実現できなかったような業務プロセス統合や柔軟な導入設計も、SaaS上で可能となりつつあります。安定性とコスト効率を維持しながら、柔軟性を確保するハイブリッド運用モデルが現実的な選択肢となっています。
まとめ
短期的なROIと安定運用を重視するならSaaS型が有利。
業務特化や独自要件を重視するならFDE構築型。ただし、カスタマイズ性の高いHigh Availability SaaSは社内のビジネス要件を満たすためのカスタマイズは対応可能となっている。
そして現在は、FDEの柔軟性とSaaSの可用性を組み合わせたハイブリッド戦略が主流になりつつあります。
